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がんという病気の恐ろしさは“浸潤(周囲の組織に入り込み、拡大していく=病気の進行に繋がる)”と、“転移”にあるといっても過言ではない。
これは、がん細胞が運動能力を持ち、周囲の正常な組織や、他の臓器や血液、リンパ液などに「遊走(移動運動)」することによって起こる。

この、がん細胞の「遊走」を食い止める(=がん細胞を移動・転移させない)新しい技術を開発したと、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者チームが2017年2月9日に発表。米国マサチューセッツ州の学術出版社Cell Pressが発行する化学ジャーナル誌Chem(ケム)に2月10日、掲載された。

がん細胞をピン留めしたように固定し、動けなくする

本研究成果の大きな特徴は、標的をがん細胞ではなく「脂質ラフト」に定めた点と言える。

これまでは、がん細胞本体に特異的、もしくは高発現が見られる分子に着目し、その分子を標的とすることで細胞の運動や阻害をする研究(がん分子標的研究)が行われてきたが、がん治療に有効な分子を特定することは非常に難しいのが現状だ。

そこで、OIST生体模倣ソフトマターユニットの研究者らは、がん細胞そのものではなく、がん細胞の運動に不可欠なことがわかっている「脂質ラフト(細胞の表面に存在する特定の脂質分子とタンパク質が集まった微小領域)」に注目。

「脂質ラフト」を標的とすることで、がん細胞を移動させない技術を開発しようと考え、子宮頸がん細胞を認識し、その「遊走」を阻む発光性分子の作製に成功した。


この分子が、どのように作用するかというとーー

作製した分子を子宮頸がん細胞の入った培養液に入れると、分子が自分で作り出す繊維質が伸びて、がん細胞表面の「脂質ラフト」同士を結合させて、大きな塊(クラスター)を作る。
 ↓
「脂質ラフト」が固定されることにより、がん細胞もピンで固定されたように動けなくなる。
 ↓
この状態から逃れようと、がん細胞は糸状仮足と呼ばれる突起物を伸ばす。
 ↓
糸状仮足の先にも存在する「脂質ラフト」同士が結合し、新たなクラスターを作ることで、がん細胞は固定され、やはり動けない状態が続く。
 ↓
上記の過程が繰り返され、がん細胞が薄く広がる。
 ↓
この反作用としてがん細胞は破裂し、細胞死が起こる。



上記のように、培養細胞系での実験ではあるものの、最終的にはがん細胞に死滅までもたらすのだ。
この分子を、研究チームは「がん破壊分子」と呼んでいる。
 (9249)

がん細胞は動けなくなるだけでなく、実験開始から8時間以内に破裂し、細胞死する。

子宮頸がん以外のがんにも応用できる可能性あり

「次のステップは動物の体内で実際の腫瘍にも同じように効果があるのかどうかを調べること」

この実験を行ったユニットを率いているイェ・ジャン准教授は、そう述べる。

と同時に、本研究で作製に成功した「がん破壊分子」は、ルテニウム金属(元素記号Ru)を中心に3個のペプチド(2個以上のアミノ酸が結合してできる化合物。サプリやトクホ=特定健康食品にも使われているので名前に聞き覚えがある人も多いのでは?)が自律的に会合している形であり、子宮頸がんの遺伝子マーカーと相互作用するものとなっているが、

「それぞれのがんは異なるバイオマーカーを持つので、将来的にはルテニウム分子の分子構造に修正を加えることで、異なるタイプのがん細胞を標的にすることが可能になるかもしれない」

と、同准教授。

今後さらに研究を進め、将来的には放射線治療や抗がん剤などがいらない、身体の負担を減らすことができる新たながん治療の研究に役立てたいーーというのがOISTの考えだ。
研究チームが作成に成功した「がん破壊分子」の構造

研究チームが作成に成功した「がん破壊分子」の構造

ルテニウム金属(元素記号Ru。イラスト内赤色部分)を中心に3個の ペプチド(同・水色部分)が自律的に会合している。
なお、本研究はOIST生体模倣ソフトマターユニットに所属するグワンイン・リー博士とジャン准教授が、OISTイメージングセクションおよび機器分析セクション、日本電子株式会社(JEOL、東京都昭島市、栗原 権右衛門 代表取締役社長)の研究者らの協力のもとに行われた。

引用・参照

https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/29029
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/gallery/83570?ph=1

【OIST】
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は沖縄県国頭郡恩納村宇谷茶にメインキャンパスを持つ、5年一貫制の博士課程を置く大学院大学。教員と学生の半数以上を外国人とし、教育と研究は全て英語で行う。

2001年6月、尾身幸次内閣府特命担当大臣(沖縄・北方対策、科学技術政策担当)(当時)が沖縄科学技術大学院大学構想を提唱。2011年11月、学校法人沖縄科学大学院大学学園が設立され、2012年9月、開学。

内閣府ホームページ「自立型経済の構築に向けた取組 ― 産業振興・雇用対策 ―」内に「沖縄において世界最高水準の教育研究を行うことにより、1) 沖縄の振興と自立的発展 2) 世界の科学技術の発展への寄与を目的として、平成24年(2012年)に開学した大学院大学」との説明があり、内閣府による予算も公開されている。

https://www.oist.jp/ja/oist%E3%81%A8%E3%81%AF
https://www.oist.jp/ja/%E6%B2%BF%E9%9D%A9
http://www8.cao.go.jp/okinawa/4/49.html


【脂質ラフト】
http://www.weblio.jp/content/%E8%84%82%E8%B3%AA%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88

【ペプチド】
http://www.weblio.jp/content/%E3%83%9A%E3%83%97%E3%83%81%E3%83%89

【ルテニウム】
https://kotobank.jp/word/%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0-150899
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