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一度太り始めると痩せるのはなかなか難しく、むしろ太りやすくなる気がする…。
特に医療知識はなくとも、経験的にそう感じている人は案外多いのではないだろうか?

もちろん、食べ過ぎや運動不足といった生活習慣が大きな要因であるのは間違いないのだが、どうやら医学的・身体生理的見地からしても、“一度太るとますます太る”というのは正しいと言えるようだ。

2017年1月26日、米・科学専門誌『Diabetes』(ダイアベティス)電子版に掲載された、富山大学大学院・医学薬学研究部・病態制御薬理学研究室の笹岡利安教授(56歳)、和田努講師(46歳)、小野木康弘大学院生(28歳)らのチームによる研究成果には

・あるタンパク質によって、肥満が加速されるメカニズムが解明された。
・このタンパク質の働きを阻害すれば、肥満病態を改善できることも明らかになり、肥満治療の新たな標的が見つかった。

ということが述べられており、肥満加速の仕組みが判明した結果、食事制限や運動以外の肥満改善法の開発が期待できると示唆されている。

肥満が起こるためには“血管”がたくさん必要

肥満とは、体脂肪が過剰に蓄積した状態であり、脂肪細胞そのもののがサイズ的に大きくなったり、数が過剰に増えたりと、肥大化することだ。

そして、脂肪細胞が肥大化するには、酸素や栄養を供給する“血管”も発達する必要があることが、今までの研究で明らかになっている。

では、なぜ脂肪細胞においては“血管が増殖”してしまうのか?

勝手に新しい血管ができないよう、制御している細胞の離脱を発見

通常、成熟血管は周皮細胞に覆われており、周皮細胞が接着していることで血管細胞の増殖が抑制され、新たな血管が無秩序に作成されないよう制御されている。

しかし、研究チームが太ったマウスの脂肪組織を詳しく解析したところ、内臓脂肪の血管では周皮細胞がはがれている部位が多く、そこでは血管細胞の増殖が盛んにおこなわれていることが発見された。

つまり、肥大化した脂肪細胞では、血管細胞の増殖を抑えるシステムが働きにくくなっており、血管の増殖が促進されているというわけだ。

何が原因で周皮細胞が剝がれるのか?

興味深いことに、周皮細胞を血管から引きはがすのは、新しい血管を形成するのに関わるタンパク質の1つ「血小板由来増殖因子B(PDGF-B)」だということが、本研究で初めて明らかになった。

また「PDGF-B」と、その受容体(レセプター;特定の物質と結合し、細胞内で特定の生理的作用を引き起こす分子。PDGFはこれと一緒でないと新しい血管を作ることができない)である「PDGFRβ」について太ったマウスの各組織を分析すると、脂肪細胞においてのみ、両者の発現量が増加していることも判明した。

ここまでの研究成果を整理するとーー

・太っているマウスの脂肪細胞には、他の細胞よりも新しい血管を作るタンパク質「PDGF-B」が、たくさん存在している。
  ↓
・その「PDGF-B」が血管の周皮細胞をひきはがし、新しい血管を作りやすい環境を自ら整える。
  ↓
・太っていなければ作られないはずの新しい血管を「PDGF-B」が作り出し、酸素と栄養が豊富に脂肪細胞に運ばれる。
  ↓
脂肪細胞が肥大化し、ますます肥満が加速する。

という悪循環が、太っているマウスの内臓脂肪では起こっていることになる。

どうして「PDGF-B」は肥大化した脂肪細胞で増えるのだろう?

その理由を解明すべく、研究チームは脂肪組織を細胞種ごとに分離して解析。

肥満になると脂肪細胞に集積する免疫細胞である「炎症性マクロファージ」(*)において、「PDGF-B」の遺伝子発現が明らかに高いことを突き止めた。

【マクロファージ】白血球の1つ。生体内に侵入した細菌などの異物を捉え、細胞内で消化する「食作用」の機能を持つとともに、それらの異物に抵抗するための免疫情報をリンパ球(同じく白血球の1つ)に伝える。
体内のさまざまな組織に分布・常在しており、脂肪組織には「炎症性マクロファージ」と「抗炎症性マクロファージ」が存在。肥満によって肥大化した脂肪細胞から遊離される飽和脂肪酸(動植物の体内に広く分布する脂肪酸のうち、すべての炭素分子が飽和しているもの)によってマクロファージは活性化され、「炎症性マクロファージ」は脂肪組織に浸潤する。

ここで再度、肥満によって脂肪細胞の血管が新たに作られる過程を整理してみよう。
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肥満が加速するカギは、肥満とともに増える「PDGF]にあることがわかる。

「PDGF-B」が働かないマウスは高脂肪食でも肥満しない!

新たな血管を作成する「PDGF-B」は、「PDGFRβ」という受容体が存在しなければ作用しないのは前述したとおり。

ここで研究チームが「重要なこと」ととして強調しているのが、「受容体「PDGFRβ」を欠損させたマウスでは、高脂肪食を摂取しても肥満にならず、従って肥満に伴う高血糖や血清脂質高値などの異常もきたさなかった」という点だ。

しかも、この「PDGFRβ」遺伝子欠損マウスの基礎代謝(何もしないでじっとしているだけでも、生命活動を維持するために必要なエネルギーのこと。ダイエットではよく、この数値をあげることが成功のカギと言われる)が高く、エネルギーが脂肪に蓄積されずに消費されているものと考えられるという。

この結果は、「PDGF-B」の作用を阻害すれば肥満を抑制できることを示しており、糖尿病やメタボリックシンドロームなど肥満に伴うさまざまな生活習慣病に対する新たな治療標的として、「PDGF-B」が有効であることを意味する。

本研究で得られた以上の知見に基づいて今後さらに研究を重ね、「PDGF-B」を標的とした肥満病態に対する治療法を追及していく、と述べている研究チーム。

揚げ物やケーキなど、いわゆる“太るもの”を好きなだけ食べても肥満とは無縁のまま、病気にもならないーー。

もしかすると同研究チームによって、そんな夢のような日がもたらされるかもしれない。
そう考えると、きっと期待に胸が高まる人も多いはずだ。
と同時に、スタイルキープのために太りたくないという女性たちや、痩身術を手掛ける美容業界の人々にとっても、本研究成果は興味津々の内容と言えるだろう。

引用・参照

http://diabetes.diabetesjournals.org/content/early/2017/01/23/db16-0881
http://www.u-toyama.ac.jp/outline/publicity/pdf/2017/0124.pdf
https://this.kiji.is/197849991193247753

http://www.weblio.jp/content/%E8%A1%80%E5%B0%8F%E6%9D%BF%E7%94%B1%E6%9D%A5%E5%A2%97%E6%AE%96%E5%9B%A0%E5%AD%90
http://mh.rgr.jp/memo/mz0143.htm

http://www.weblio.jp/content/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8
http://www.jasso.or.jp/data/topic/topics12_70.pdf

http://www.weblio.jp/content/%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93
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