ケナガマンモスは復活させるべきでしょうか?ヒト胚の遺伝子編集は?あるいは人間にとって害があるとされる種を全滅させることは?

ゲノム編集技術CRISPRは、こういった途方も無い問題を検討する根拠を与えました。でも、その仕組みはどうなっているのでしょう。科学者でコミュニティ・ラボを提唱するエレン・ヨルゲンセンが今、熱心に取り組んでいるのは、科学者以外の人々にCRISPRの神話と現実を冷静に説明することです。

ゲノム編集技術「CRISPR」

皆さん「CRISPR」について聞いたことはありますか? 聞いたことがなかったとしたら私はとても残念です。これはゲノム編集の技術でとても用途が広く、また論争も多いので、実に興味深い様々な議論が巻き起こっています。

ケナガマンモスを復活させるべきか?
ヒト胚の編集はすべきか? 

そして私のお気に入りは、

この技術を使って人類にとって害があると考えられている種を地球上から完全に滅ぼすことは正当化できるか?

という議論です。

DNA編集の仕組み

この科学の分野は、それを管理する規制の仕組みよりはるかに速く進んでいます。そのため、この6年の間、このような技術とその影響をできるだけ多くの人に、しっかり理解してもらうことを、私は自分自身の使命としてきました。

CRISPR はマスコミが騒ぐ格好のネタになっていています。その中で最もよく使われる言葉が「簡単」と「安価」です。そこで私が少し掘り下げてお話したいのは、CRISPRにまつわる神話と現実についてです。

ゲノムにCRISPRを使う場合、はじめにDNAに傷をつけなければなりません。この傷は二重らせんを2本鎖とも切断するという形をとります。すると細胞の修復プロセスが始まるので、このプロセスを自然な流れではなく、私たちが望むように働きかけます。

DNAを追う「Cas9」と、遠ざける「ガイドRNA」

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このシステムは2つの部分から成っていて、1つは「Cas9タンパク質」 もう1つは「ガイドRNA」です。これらは誘導ミサイルのようなものです。

私はよく擬人化するのですが、Cas9はDNAを追うパックマンのようなもので、ガイドRNAは、完璧に適合する部位を見つけるまでゲノムからCas9を遠ざけておくリードのようなものです。この2つを合わせてCRISPRと呼びます。このシステムは遥か太古のバクテリアの免疫機構を真似たものです。

驚くべきポイントは、ガイドRNAの中のわずか20塩基が標的を定めるという点です。設計も実に簡単ですし、購入価格も安価です。それはシステム内でモジュールになっており、他の部分はまったく変わらないため、とても簡単で強力なシステムになっています。

ガイドRNAとCas9タンパク質は複合体を形成し、ゲノムのあちこちにぶつかりながら、ガイドRNAと適合する部位を見つけると、二重螺旋の2本鎖の間にもぐり込みDNAを引き離してCas9タンパク質による切断を誘発します。すると突然DNAの一部が壊れるため細胞は完全にパニックに陥ります。

細胞による修復の課程に偽物のDNAを与え、騙して編集

細胞はどう対応するのでしょうか?

まず、初期対応システムを呼び出します。主な修復過程は2つあり、1つ目は切断されたDNAを無理やり元のようにくっつけます。これはあまり効率が良くありません。塩基が欠落したり、付け足されたりする場合があるからです。遺伝子の機能を無効にする場合にはまあ悪くない方法でしょうが、ゲノム編集にはあまり向きません。

もう1つの修復過程ははるかに興味深いものです。この修復過程では、DNAの相同部位が必要となります。ヒトのような2倍体生物はゲノムの一つのコピーを母親から、もう一つを父親から受け取るので一方が損傷を受けても、もう一方の染色体を使って修復できます。これがこの修復過程の源です。修復が完了し、ゲノムはまた元通りになります。

この過程を乗っ取るためには、偽物のDNAの断片を与えます。この断片の両端は相同ですが、真ん中は違うものです。こうすると中央に何でも好きに挿入して細胞を騙すことができます。こうして塩基の変更や削除が可能になりますが、極めて重要な点は、まるでトロイの木馬のように新しいDNAを挿入できることです。

今後、CRISPRは驚くべきものになるでしょう。この技術から生じるであろう、様々な科学の進歩は、膨大な数に上るからです。この技術が特別なのは、モジュール式標的システムを使っているという点です。我々は長年、強引にDNAを生物へ導入してきましたが、このモジュール式標的システムのおかげで、DNAを意図した場所に挿入できるのです。
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ある日のメール

ただ問題なのは、この技術が「安価で簡単」と言われ過ぎていることです。私はコミュニティー・ラボを運営していますが、いろいろな人からこんなメールが来るようになりました。

「夕方、ラボが開いている時に行って、CRISPRとか使って自分のゲノムを操作できる?」

本気でそう言って来るのです。

「それは無理です」と答えますが、

「でも値段が安くて簡単だって聞いたよ。」というのです。

「簡単」で「安価」だが…

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