この点について少しお話しましょう。

どのくらい安価なのか? 確かに相対的には安価です。実験に使う試薬の平均が数千ドルだったものが、数百ドルになるでしょうし、

時間も大幅に短縮できます。何週間単位から何日単位になるのです。

これはすばらしいことでしょう。それでも作業するには専門の研究室が必要ですし、プロ用の研究室以外で意味のあることはできないのです。「キッチンでもできる」なんて言葉を本気にしてはいけません。こういった研究は簡単なものではないのです。

特許闘争に巻き込まれる懸念とブラック・ボックス

それに加えて、特許をめぐって係争中なので 、たとえ何か発明できたとしても、ブロード研究所とUCバークレー校の壮絶な特許闘争に巻き込まれます。

この闘争の展開は実に興味深くて、主張は嘘だと互いに非難し合い、中には、「確かに自分の実験ノートにサインしたよ」と証言をする人もいます。

この和解には何年もかかるでしょう。それに和解したとしても、この技術を応用するには巨額のライセンス料がかかることになるはずです。もしもすることが基礎研究であり、自前の研究室があれば安いでしょうが、これで本当に安いと言えるでしょうか? 

では容易さについてはどうでしょう?悪魔は常に細部に宿ります。細胞について、実はまだよくわかっていません。未だにブラック・ボックスなのです。例えば、ある種のガイドRNAはうまく機能するのに、別の種が機能しない理由はわかっていません。ある細胞が一つの修復過程をとり、別の細胞は他の修復過程をとるその理由もわかっていません。
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本当に導入して良いのか

それ以外に、そもそもこのシステムを細胞に導入すること自体に問題があります。

培養皿の中なら  それほど難しくないのに、個体全体に適用するのはとても厄介なのです。血液や骨髄のようなものの場合は問題ありませんし、これらは現在でもたくさん研究されています。

ある白血病の少女が、CRISPRに先行する技術を用いて採血し、血液細胞の遺伝子を編集して体内に戻すことで助かったという素晴らしい話もありました。みな、こういった研究を進めていくでしょう。

しかし現状では、体全体に導入しようとすれば、ウイルスを使う必要があるでしょう。CRISPRをウイルスに導入し細胞に感染させるのです。

ただ、ウイルスを体内に入れるとその長期的な影響がどうなるかはわかりません。

さらに可能性はごくわずかですが、CRISPRは標的外の部位を切断する事があります。長期間ではどんなことが起こるでしょう?

これらはささいな問題ではありません。また、解決しようとしている科学者たちもいますし、おそらく、いつの日か解消されることでしょう。しかし、すぐに利用可能というわけではありません。そうなると「簡単」と言えるでしょうか? 特定のシステムについて数年間かけて解決する場合なら簡単といえるでしょう。

さらに別の問題は、ゲノムの特定の部位を変更して思い通りの結果を出す方法があまりよくわかっていないことです。例えばブタに羽根を生やす方法がわかるのはずっと先のことでしょう。足を1本増やす位で我慢するとしてもです。

一方、実際にはCRISPRは 何千もの科学者たちによって、極めて重要な研究で使われています。例えば動物を使ってより優れた疾患モデルを作る研究や、有益な化学物質の生成過程をとりあげて、それを産業製造規模にして 発酵タンクで利用する研究遺伝子の役割に関する 基礎研究にも使われています。

「技術を学んで欲しい」

これこそ 私たちが伝えるべき CRISPRの話です。

私はこういうことが全部派手な面に埋もれてしまうのが気に入らないのです。CRISPRを実現するために多くの科学者が、数多くの研究をしてきました。そして私が興味深いと感じるのは、この科学者たちが私たちの社会に支えられているということです。

考えてみてください、私たちの社会にはインフラがありそのおかげで 一定の割合の人々が常に研究をしていられるのです。

この事実によって、私たち全員がCRISPRの発明者であり、その番人になっていると言っても過言ではないでしょう。私たち全員に責任があります。

だから皆さんにこういった技術を学んで欲しいのです。

なぜなら、そうすることで初めて、こういう技術の発達や活用方法を自分たちの手で導くことができるようになり、最終的には有益な成果としてこの地球と我々にもたらされるのですから。
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