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副作用のない抗がん剤があれば、どんなにいいかーー。

患者はもちろん、医療関係者の誰もが願ってやまない薬の開発が、急ピッチで進む期待が高まってきた。

なぜ抗がん剤に副作用がつきまとうのか?

がん治療の大きな柱の1つである抗がん剤。
その多くはがん細胞の分裂を阻害することにより、がんの増殖を抑えたり、死滅させたりして、がんを抑え込む作用を持つ。が、同時に正常な細胞にもダメージを与えるため、重い副作用を伴う場合が多い。

そこで近年、盛んに研究が行われているのが、がん細胞だけを選んで抗がん剤を届けるドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS)の研究だ。

ただ、これまでのDDSは大きな分子を利用するため、体内動態(体内に入った薬がたどる過程)がよくなく、がん細胞にうまくいきわたらなかったり、生産コストが高くつく点が課題とされてきた。

その解決策になりうる「小分子型DDS」の作成に成功したと、京都府立医科大学 大学院医学研究科 医薬品化学の鈴木孝禎教授および太田康介大学院生らの研究グループが11月25日、発表した。

がん細胞に結合し、2つの薬剤の相乗効果が得られる

研究グループは、LSD1(リシン特異的脱メチル化酵素1)という酵素が、多くのがんで多く発現し、がんの増殖に関与していることに着目。

細胞膜透過性に優れた小分子のLSD1阻害薬「フェニスシクロプロピルアミン(PCPA)」と、もう1つの抗がん薬剤を組み合わせ、下記の仕組みを持つドラッグデリバリー小分子「POCA-薬物複合体」を作成する分子技術を新たに開発した。

①「PCPA-薬物複合体」が、 LSD1を目印としてがん細胞に結合
    ↓
② 第1の薬剤であるPCPAがLSD1の活性を阻害し、がんの増殖を抑える
    ↓
③ ②を引き金とし、2つめの抗がん活性を持つ薬物が放出される

つまり、この「POCA-薬物複合体」を使えば、LSD1を高発現しているがん細胞に薬を届けられるのに加え、がんを増殖させるLSD1を阻害したうえで第2の抗がん薬剤の作用を確実に付与できるという、相乗的効果が得られるのだ。
LSD1阻害を引き金に抗がん剤を放出する分子技術の概要

LSD1阻害を引き金に抗がん剤を放出する分子技術の概要

PCPA-薬物複合体はがん細胞に高発現するLSD1に選択的に結合する。これに伴い、LSD1の酵素活性は阻害され、それと同時にPCPA-薬物複合体間の結合が開裂し、薬物が放出される。

正常細胞はほぼノーダメージで生存!

実証実験として、研究グループは「PCPA」と乳がん治療薬「タモキシフェン」を組み合わせた「PCPA-タモキシフェン複合体」を作成。

・この複合体が乳がん細胞のLSD1発現を強く阻害したのち、タモキシフェンを放出することにより、その増殖を強く抑制する(下図参照;LSD1の増殖を半分に抑えるために必要な薬剤の濃度が1/160で済むようになっている)。

・とともに、この複合体がLSD1発現の少ない正常細胞には毒性を示さないこと

以上2点を確認している。
LSD1阻害を引き金としたPCPA-タモキシフェン複合...

LSD1阻害を引き金としたPCPA-タモキシフェン複合体からのタモキシフェンの放出(n=3)

(左)PCPA-タモキシフェン複合体はLSD1の酵素活性を強く阻害した。
(右)PCPA-タモキシフェン複合体はLSD1存在下、タモキシフェンを時間依存的に放出した。
PCPA-タモキシフェン複合体の乳がん細胞に対する効果...

PCPA-タモキシフェン複合体の乳がん細胞に対する効果と正常細胞への影響

(左)PCPA-タモキシフェン複合体は女性ホルモンの一つであるエストラジオールで刺激した乳がん細胞の増殖を低濃度で抑制した。
(右)PCPA-タモキシフェン複合体は正常細胞に対してほとんど毒性を示さなかった。

乳がん以外の多くのがんに適用が可能

さらに「PCPA-タモキシフェン複合体」は、すでに動物実験での有効性と安全性の確認も取れており、臨床への応用を進めることで副作用の少ない抗乳がん剤の開発が期待されると、研究グループ。

また、この分子技術は乳がん治療薬だけでなく他の抗がん剤と組み合わせることが可能であり、さまざまながんに適用できる抗がん剤デリバリー分子の開発にも期待が持てるとしている。

副作用が少ないがん治療薬といえば、オプジーボを始めとする免疫チェックポイント阻害薬が頭に浮かぶ。しかし、それらは使用に必要な結合分子の発現に個人差があり、適応承認されている全てのがんで治療が有効というまでに至っていない。

一方、多くのがん細胞に高い確率で発現するLSD1を利用し、有効性の確認が取れている抗がん剤をピンポイントでがん細胞に届けられるDDSシステムが確立すれば、多くの抗がん剤服用患者の副作用を軽減し、しかも比較的低いコストでの治療が可能になる。

新たなDDSシステムの開発は国の医療費膨張をも解決し、抗がん剤治療を“つらく”“恐ろしい”ものでない存在へと変える大きな可能性を秘めている。

引用・参照

https://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2016/20161125.html
https://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2016/files/12929.pdf
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