PULSE TALK 第2章

ワトソンの使い方ガイド

西野均
日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発部長
2017年3月14日
明治維新。横浜と新橋の間で陸蒸気(蒸気機関車)対人が乗った馬の競走があったという。この時の結果が「馬が勝った」という話が残っている。
先端技術対人力。将棋もチェスも囲碁もそろそろ先端技術が勝利をおさめるようになってきたようだ。アメリカのテレビのクイズ番組に出て人間をやっつけたことで脚光を浴びたアイビーエムの人工知能テクノロジー「ワトソン」は果たして人力を超えるのか?
pulseを読んでいる人は知っている。
人工知能による便利な時代がやがてくることを。馬よりも内燃機関の方がはやいという時代は「馬が勝った」すぐ後に来てしまった。「時代は変化する」ノーベル賞作家のボブ・ディランも言っている。
昨年命未来フォーラムで登壇された西野均さんのお話を聞いてみよう。

データが“ある”だけでは役に立たない・・・データの構造化

「AIを使いたいんだ」ということで、”こんなに検査データがあります”、”こんな健康診断のデータがあります”というお話を相談させていただくことがよくあります。

 ただ、AIを活用するために必要なデータは基本的には「教師あり」supervised leaning=学習のためのデータです。

「教師あり」とは何か? というと、先ほどのクイズ番組の事例だと、過去40年間のクイズ番組の質問と答のペア(編集部注:教師ありとはお手本ありですね)。これが学習データになります。

 最近、銀行のコールセンターでワトソンを使用する事例がありますが、この場合には,コールセンターの方々がコールログ(ここでは整理された会話記録)を作っていて、お客さんからどういう質問をされ、どういう答を返したかという質問と答がペアになっているデータがあります。

 つまり、単純な現象面だけではなく、“何々が起こっているから、どういう結果になった”というデータ。これが”きれいにペアで揃っていれば”、AIに学習させることでその中からルールを見つけ出し、答を出すということができるようになるのです。

 医療分野での一例をあげます。
顕微鏡の画像データが、一方は皮膚がん、メラノーマで、もう一方は良性のホクロです。
 (9307)

悪性と良性のデータの両方の画像合計を3千枚を用意して、「この画像はがんだよ」「この画像は良性だよ」というのをコンピューターに教えて、覚えさせていきます。

 ワトソンはディープラーニングを使って、画像の中の特徴を抽出しながら、それぞれの差異を見ていくことができるわけですけれど、これをやったところ95%ぐらいの確率で、この画像が良性か悪性かという判断ができるようになりました。

 今、米国のがんセンターでアメリカ全土から画像を取り寄せて、もっと枚数を増やすと精度があがるかな? という実験を始めようとしています。

 もうひとつ、(画像人工知能処理の)トレーニングをする方法としてよくやるのが、類似性を見ていくというパターンです。

 アメリカのある系列病院で、2013年に実施した例ですが、うっ血性の心不全で入院されていた患者さんが、退院したあと短い期間内に再入院する確率が非常に高い。

 その再入院率を減らしましょうというのが、プロジェクトの中身でした。その理由は、短期間での再入院により病院側がペナルティを課されるという米国の保険の仕組みによるところが大きいです。

 では、実際に実験で何をやったかというと、心不全で退院した多くの患者さんデータから、とある人――(調べたい患者さんに近い人)を300人集めてきます。そして、その300人の人たちがどうやったら良くなったか、どうやったら再入院しなかったかを解析する。

 こうやった方が確率的によくなるという項目が、簡単に出てきます。結論から言いますと、この仕組みを使って再入院率は格段に減っています。

 キーになるのは、10万人の中からある特定の患者さんに近い300人を、どうやって選ぶのかというところです。

 いろいろある項目の中から何が近い人を同じカテゴリーに入れるのか? その選択が、いちばんのキーになります。

 実は、もともと医療データをばあ~っと大量に入れると一般的な相関関係しか出てきませんでした。しかし患者の行動についてのデータも入れるとより現実的な相関関係が出てきます。たとえば、何回外来の予約を無断でキャンセルしたかなど。

 ただ、それ自体が再入院率と因果関係があるわけではないけれど、その人の行動パターンと言いますか、そういうものを調べていくと再入院する可能性の高い人を抽出できるということがわかったのです。

完治・再入院・悪化を分析するワトソン

最終的に出てきたのが次の結果です。

退院しました、そのあとトリートメントとして6種類の処置の方法があります。ステップ1、ステップ2と進んでいって、最終的に濃い緑で終わっているところはうまく治って、もう大丈夫になりましたという患者さんです。赤のところは再入院しました。黄色は外来でかなり悪化しましたーー
 (9309)

この“最終的にbはこうなった”という結果から逆引きしていって、1週目なり1か月目にはこういうトリートメント処置をしたり、ケアをした方がより結果がよくなった、というのを“見える化” したものを作ってみました。

こんなものをツールとして使いながら、個々の患者さんの治療に介入することによって、結果的にはいいケアができるようになった。それもまたひとつの医師の仕事を支援するデータ解析のAIです。

次回

ワトソンが今行っている、「3つのソリューション」とは|西野均|日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発部長|第3章 PULSE

ワトソンが今行っている、「3つのソリューション」とは|西野均|日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発部長|第3章    PULSE
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西野均

日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発部長
82年慶応大学数理工学科卒
ICタグシステムの研究開発に携わり、物流や生産現場での効率化につながる技術推進に大きく貢献。現在はワトソン研究開発のエキスパート。

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