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世界のスパコンの性能を半年に1度評価する「TOP500」の最新ランキング(2016年11月14日公開)で、1位、2位を独占したのが中国勢だ。

ずば抜けて高い数値を持つ1位の「神威太湖之光」

順位 システム 理論最大性能(T Flop/s) 実際の最大性能(T Flop/s)
1位 神威太湖之光(無錫市国立スーパーコンピュータセンター) 125,435.9 93,014.6
2位 天河2号(中国国防科学技術大学:NUDT) 54,902.4 33,862.7
6位 Oakforest-PACS(東大・筑波大が共同運用)   24,913.5 13,554.6
7位 京(理化学研究所) 11,280.4 10,510.0
・理論最大性能:理論上の最大性能
・実際の最大性能:LINPACK(リンパック)ベンチマークと呼ばれるプログラムを実行した際に得られた性能。「TOP500」のランキングは、これをもとに評価される。


「TOP500」のランキング上位を抜粋したのが上の表。
1位の「神威太湖之光(Sunway TaihuLight)」の“実際の最大性能”と比べると、日本勢最高位の6位「Oakforest-PACS」も、続く7位の「京」も1/9程度の性能しか持っていないことになる。

2009年、政権を握っていた民主党が歳出削減に向けて行った事業仕分けで、スパコン開発費に関して蓮舫現民主党党首が発した「2位じゃダメなんでしょうか?」というセリフがあったが、今や2位どころか6位と7位、それも性能に大差をつけられて…という結果。
となると、「日本のスパコンは凋落したのか」「こんな性能では日本の科学技術研究は遅れてしまうのではないか」「創薬は?」「医療の進展は?」と不安を抱く向きもあるだろう。

しかし、心配は無用だ

なぜなら、スパコンの性能を評価するベンチマークは、「TOP500」が使用しているLINPACKだけではなくなってきているからだ。

「TOP500」がスタートしたのは1993年。すでに20年以上前のこととなる。
その時から、「TOP500」のランキングを定めるベンチマークとして使われているのが、米テネシー大学のジャック・ドンガラ博士らが開発したコンピュータの性能計測プログラムLINPACK。簡単に言えば、連立一次方程式を直接法(解を直接求める)で処理する能力を測るもので、足し算や掛け算を順番に行っていくという、ある意味、単純作業のベンチマークプログラムだ。

だが、「TOP500」の誕生からこの20年間のあいだに、スーパーコンピュータのシステムは急速に発達し、一方ではスパコンを利用する科学研究分野が増大。処理するソフトの特徴が多様化し、それこそゲノム解析のような規模の大きなビッグデータを扱う機会が多くなるなど、スパコンを取り巻く環境は大きく変化している。

つまり、時とともにスパコンが扱う処理の内容は変わってくるのだから、時代に合ったベンチマークでスパコンの性能を測ることが必要だということ。

この考えのもと、近年は新しいベンチマークと、そのベンチマークを用いたスパコンの性能ランキングが登場している。

新ベンチマークのひとつは「グラフ解析」

2010年に始まった「Graph500」は、ビッグデータと呼ばれる大量のデータ解析で重要な「グラフ処理」の計算速度を競うもの。

近年、盛んに行われるようになってきた実社会における複雑な現象の分析では、分析対象は多くの場合、大規模なグラフ(節と枝によってデータ間の関連性を示したもの)で表現される。

たとえば、SNSで誰と誰が繋がっているかといった、膨大な人間関係のデータをグラフ化。枝が密集している箇所を探し出せば最も発言力が大きい人物を特定でき、その人をターゲットに効果的なマーケティングを実施する、といった使われ方を可能にするのだ。

「グラフ処理」を高速で処理できるスパコンで期待される医療分野の成果には、以下のようなものが挙げられる。

・ヒトの体の中におけるタンパク質の複雑な相互作用のネットワークを、グラフ化して解析。治療効果が高く副作用が少ない薬のターゲットとなるタンパク質を見つけ出す

・1000億を超えるヒトの脳の神経細胞のネットワークの分析

・脳の学習の仕組みをまねた情報処理技術である人工知能(AI)の研究

この「グラフ解析」をベンチマークとする「Graph500」で、理化学研究所のスパコン「京」は今回5度目、4期連続の世界1位を獲得している。

最も新しく登場した性能ランキング「HPCG」

2014年にランキング発表を開始した「HPCG」(High Performance Conjugate Gradient)のベンチマークは、大規模な連立一次方程式だ。ただ、前述のとおり「TOP500」のLINPACKは解の求め方が直接法であるのに対し、「HPCG」は反復計算を行うことで正しい解へと集約させていく反復法の1つ、共役勾配法を用いている。

これは、産業利用など実際のアプリケーションでよく用いられる計算手法で、なかでも物理現象を扱うコンピュータシミュレーションの世界で、よく使われるもの。

「TOP500」のベンチマーク「LINPACK」開発者の1人、米国テネシー大学のジャック・ドンガラ博士らが、より多面的な視点からスパコンの性能を評価するための新しいベンチマークプログラムとして提案し、計算機としてトータルなバランスを検証できるといわれている。

この「HPCG」2016年11月の最新ランキングで、理研の「京」は世界1位に、そして「TOP500」で「京」を抜いたと話題になった新登場の「Oakforest-PACS」(最先端共同HPC基盤施設:JCAHPCにて東大と筑波大が共同運用)は、3位にランクインした。

日本は何で世界1位をめざすのか?

とはいえ、ひとつのベンチマークでスパコンの性能全体を測定することは、まず不可能だとされている。

もちろん、より強力な計算能力を持つスパコンが現れるのは、医療・創薬を始めとする科学技術分野の研究にとって望ましいことだ。
しかし、計算速度を高めても、莫大な開発費と莫大な消費電力による多額のランニングコストが必要というのでは、費用対効果を考えた時に決して効率的とは言えない。

実際、2005年には「Green500」という、エネルギー消費効率のよいスーパーコンピュータを定期的にランク付けするプロジェクトが始まっており、以下のランク表を見れば、「TOP500」「Graph500」「HPCG」とは違うスパコンが上位に食い込んでいること、そして、日本勢の健闘ぶりが伺える。

「Green500」2016年11月のランキング上位 

1位 アメリカ/NVIDIA社・DGX SATURNV
2位 スイス/スイス国立スーパーコンピューティングセンター・Piz Daint
3位 日本/理化学研究所・Shoubu:菖蒲
4位 中国/無錫国立スーパーコンピュータセンター・神威太湖之光
5位 ドイツ/富士通テクノロジー・ソリューションズ本店・QPACE3
6位 日本/最先端共同HPC基盤施設(東大・筑波大)・Oakforest-PACS

9位 日本/京都大学・Camphor 2

また、2016年2月に文部科学省が「京」の後継機の基本設計に関する指針において、計算速度ではなく、省エネ性能や使い勝手の良さを重視するという方針を発表したのも、記憶に新しい。

ランキングに一喜一憂するのではなく

今回、「TOP500」で日本のスパコン最高位を獲得し、「京」を抜いたと話題になった「Oakforest-PACS(オークフォレスト・パックス)」は、東大と筑波大が共同で立ち上げたJCAHPC(最先端共同HPC基盤施設)で共同調達・運用するもので、2つの大学が連携して1つのスパコンを保有するというのは国内初の試みだ。

「これは日本全体の力の結集へ向けた試金石になるものであり、この試みを成功させるべく、Oakforest-PACSを共同利用・共同研究に提供し、次世代の科学技術分野の研究開発を飛躍的に推進するとともに、計算科学およびHPC(high performance computing:スーパーコンピュータとほぼ同義)の人材育成にも利用してもらいたい」

以上のような趣旨のコメントを、JCAHPCは「TOP500」の発表に際し、リリース内で行っている。

日本全体の力を結集する――。
ひとつ、ひとつのスパコン性能ランキングの結果にばかりフォーカスするのではなく、そこ=日本の総力でできることに注目もし、注力もしてもらいたいと願う。


【引用・参照】

http://www.aics.riken.jp/library/release/161116-3.html
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/news/2015/rn201511.pdf
http://jcahpc.jp/#PR
https://www.top500.org/green500/
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