PULSE TALK 医療ワトソン最新入門編 第4章

実はIBMのヘルスケア部門のエンジニアは日本にいる

西野均
日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発部長
2017年3月28日
明治維新。横浜と新橋の間で陸蒸気(蒸気機関車)対人が乗った馬の競走があったという。この時の結果が「馬が勝った」という話が残っている。
先端技術対人力。将棋もチェスも囲碁もそろそろ先端技術が勝利をおさめるようになってきたようだ。アメリカのテレビのクイズ番組に出て人間をやっつけたことで脚光を浴びたアイビーエムの人工知能テクノロジー「ワトソン」は果たして人力を超えるのか?
pulseを読んでいる人は知っている。
人工知能による便利な時代がやがてくることを。馬よりも内燃機関の方がはやいという時代は「馬が勝った」すぐ後に来てしまった。「時代は変化する」ノーベル賞作家のボブ・ディランも言っている。
昨年命未来フォーラムで登壇された西野均さんのお話を聞いてみよう。

IBMのヘルスケア部門のエンジニアは日本にいる

最初にお話したように、ワトソンを使うにあたってはデータが必要です。

医療のデータだけでなく、個人の情報だったり、ヘルスデータ、さらに最近は家庭用ヘルス機器によるデータなども混ざってきています。

それらをどうやって一元的に集めて、各個人に合う健康なヘルスケアを考えていくかーー。
IBMとしてはそこにフォーカスしようということで、すでにアメリカではデータ収集をすべく、さまざまなプロジェクトが始まっています。

そのために作ったもののひとつが「ワトソン・ヘルス・クラウド(Watson Health Cloud)」です。
これはヘルスケアに関するオープンなクラウド基盤ですが、実は開発エンジニアの一部うち、かなりの人数は日本にいます。

私が所属している研究所の中で、数十人の人間が関わっている。IBM自体の動きはグローバルなものですし、研究所はどこにあろうがあまり関係なく、実際に今、彼らがワークしているのはアメリカのヘルスケアビジネスに貢献できるような研究です。

しかし、せっかく日本にエンジニアが大勢いるのだから、日本でももっとワトソンを使って、一緒に研究なり、プロジェクトなりが進められればなあと、個人的には思っています。ただ、日本ではまだまだ難しい面が現実的にあります。それを最後にご説明いたします。

日本でワトソンを医療活用するための課題 その1

ひとつはプライバシーの問題です。

アメリカではHIPAA法によって患者の同意の基、医療データの利活用が進んでいますが、日本では個人情報とされるデータを集めるのがまだまだ難しい。

Appleの「リサーチキット(Researchkit)」のように、患者の同意の基、データ収集の活動をされているケースもあります。

日本では昨年11月、慶応大学の医学部が初めて導入して、「Heart&Brain」という不整脈と脳梗塞の関係性を探る研究を始めました。東京大学で糖尿病研究用の「GlucuNote」、順天堂大学ではロコモーティブシンドローム用「ロコモニター」、パーキンソン病用「iPARKSTUDY」、ぜんそく用「ぜんそくログ」の3つがスタートしています。

 

これらのアプリでやっているのは、まさにデータ収集です。その病気に関わる患者さんや興味を持っている人たちに向かって、アプリに情報を送ってくださいとお願いをする。それに本人同意した個人の方から、研究に使ってくれと自分のデータを提供してもらえる仕組みになっています。

そのあたりは日本でもアクションがとられてくると思いますが、も今後、かなり慎重に真剣にやっていかないといけないなと感じる部分と感じておりますです。

日本の課題その2

データの統合化という点ですが、標準を定めるというのが日本ではなかなか難しい。

アメリカの場合には、データの標準化の基準が幾つかあって、それらを日本でも使っていたりはします。また、我々IBMとしてもコード化(構造化)されたデータでいろいろやっていますけれど、そうすると逆に、テキストなどで記述された重要な本来必要な情報が削げ落ちてしまったりするんです。

そういう観点からすると、情報としてこういうものは必ず入れようとか、共通のキマリみたいなものを定める必要があるのではないか。そして、それが実現すれば医療データの質が上がり、「教師あり」データも非常に精度よく集まるようになるはずだと考えています。

日本の課題その3

最後は、法的な整備です。

先ほど「ワトソン・フォー・オンコロジー」を実際のがんの診断支援に使えているのは、インドやタイだという話をしましたけれど、日本やアメリカだと法的な縛りで使えない部分があります。

アメリカではワトソンのようなAIを使った医療を推進しようということで、医療機器認定とは違う動きが出てきており、ちょうど今、そのための法案が議会に提出されている最中です。12月には21st Century Cures Actとしてその動きを加速すべく法案が成立しております。(https://obamawhitehouse.archives.gov/blog/2016/12/12/3-letters-explain-why-president-obama-signing-cures-act?vm=r&s=1)

日本でもAIを活用した医療に十二分な力を発揮させるべく、そうした法的整備が早急に進むことを期待しております。を早急に進める必要がある。それが日々、グローバルにAIとともに仕事をしている者の実感です。
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西野均

日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発部長
82年慶応大学数理工学科卒
ICタグシステムの研究開発に携わり、物流や生産現場での効率化につながる技術推進に大きく貢献。現在はワトソン研究開発のエキスパート。