PULSE INTERVIEW 第4章

医療イノベーション先進国アメリカと、日本では何が違うのか?

鈴木寛
東京大学教授
2017年5月30日

医療において「アクセス」「コスト」「クォリティ」はトレードオフになっている

ある国の医療について語る時には、まず「誰の立場から見るか?」というのが重要です。

患者の立場なのか、医師の立場なのか、納税者の立場なのか。

患者といっても、ものすごくお金のある患者と、お金がない患者と、それから中間層の患者が存在している社会的現実があり、ひとくくりにはできない面がある。

医療を評価する基準には「アクセス(Access)」と「コスト(Cost)」と「クオリティ(Quality)」という3つがあります。これらは全部トレードオフの関係です。

この、ACQがトレードオフであるということ、そして“誰にとってのベストの医療なのか?”というのを組み合わせて考えると、アメリカはお金のある患者にとっては最高ですよね。最先端の医療というか、最新鋭の医療機器で、最先端の医療は金をたくさん払えば最高のクオリティで受けられる。

逆に日本は、お金のない患者さんにとっては素晴らしい環境です。アメリカでは現行の制度では5千万人がそもそも医療にアクセスできないわけですから。また、中流というかミドルクラスの人にとっても、安価でクオリティの高い治療が受けられる日本は最高と言えるでしょう。イギリスも社会保障制度が充実していますが、日本の方がお金のない患者に優しい環境と言えるでしょう。

アメリカは医療イノベーションの面では世界最高

確かにアメリカは、最先端の医療イノベーションを実現させているという点では世界ナンバー1です。アメリカは毎年GDPの16~18%を医療に投じているわけで、これは、それだけのマーケットがあるということです。しかも、アメリカは日本の3倍GDPがあるので、医療関連費がGDPの11%前後の日本と比較すると額にして6倍から7倍、下手すると10倍のマーケットが存在するということになる。

ただし、アメリカの医療は前述したように「アクセス」面が良くないので、マーケットを支えているのはお金持ちの患者です。つまり、医療に対して、それだけ高額のお金を払う人が存在する。逆に言えば、その18%の医療費を、お金持ちの患者が支えているわけです。

しかし、最先端医療が高額なのは当然といえば当然で、たとえばコンピューターだって初期には1台
10億円とか20億円したのが、今は数万円で買えます。庶民が買えるものではないものから始まって、やがて市民化する。同じように、最初にお金持ちに高い治療費を払ってもらって医療イノベーション起こし、だんだんに市民化していけばいいだろうって考え方がアメリカにはあるんですね。

結局アーリーインベスターというか、富裕層が最先端のイノベーションに投資をし、費用負担をして、それで出来たものをあとからコストダウンと、それからクオリティアップしていく。それがアメリカの医療の構造になってます。

だから、初期に高額な「コスト」がかかり、お金持ちしかアクセスできないというのは公平か不公平かで言えば不公平になるかもしれないけれど、医療イノベーションの観点から見れば、むしろ、お金持ちがそのテクノロジーが育つのを支えて、世の中に広まるのを助けているという見方もできるわけです。

しかし、この“マーケットがある”ということを日本は「コスト」と見ちゃうわけです。医療費にこんなにかかっている、と。でも、それはコストでもあるし、新しいイノベーションに繋がるチャンスでもあるんです。そこを日本人は残念ながら理解できていない。それが、日本で医療イノベーションがなかなか起こらない大きな理由の1つだと、私は感じています。

日本は「コスト」と「クオリティー」の面では世界最高

日本は「コスト」と「クオリティー」の面では世界1でしょう。最先端ではないけれど質のいい医療を、極めて安い値段で、誰もが公平に受けられるということに関しては、日本は世界一といっていいと思います。それこそ同じ治療をアメリカの10分の1の価格で受けられますから。

余談めきますけど、アメリカの場合には、政府の役人がガンが見つかったとなったら、転職せざるを得ないんです。なぜなら、公務員の給料ではアメリカの高いガン治療費は払えないから。高い給料を払ってくれる民間の企業に転職しないと、ガン治療が受けられない。国務省に努めてる役人でさえ、転職を余儀なくされます。
それから、アメリカには医療破産というのもいっぱいあります。家族の誰かが病気になると、お金がかかって破産するって国なんです、アメリカは。日本はその点、家族に病人が出たから破産したって話は聞いたことがない。

また、イギリスの場合、「高福祉・高負担」ということで、60歳以上の国民はみんな医療費をタダにするとかやってますけど、タダで受けられる治療の範囲は狭い--というよりも、政府が狭くしているんです。でないと財政的に成り立たないので。

それとともに、イギリスはそれをやって何が起こったかというと、治療を受けるまで3か月待ち、半年待ちみたいなのが当たり前になってしまった。なので、結局イギリスの金持ちはアメリカへ行って治療を受けるということが起こっています。
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鈴木寛

東京大学教授 慶應義塾大学教授 文部科学大臣補佐官
1964年生まれ。杉並区立桃井第三小などを経て灘中・高、東大法卒。中高ではサッカーとバンドに明け暮れ、大学では演劇と音楽に没頭。通産官僚を経て、慶応義塾大学助教授。2001年参議院議員初当選(東京都)。以来、文部科学、医療を中心に活動。2007年再選。文部科学副大臣を2年間つとめる。2011年より、与党で政策調査会副会長、現在広報委員長。超党派スポーツ振興議連幹事長、東京オリンピック・パラリンピック招致議連事務局長。日本ユネスコ委員。大阪大学招聘教授、中央大学客員教授、電通大学客員教授。趣味:サッカー、合唱(六本木男声合唱団創立メンバー)、演劇。