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国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構-放射線医学総合研究所-放射線影響研究部の柿沼志津子部長、発達期被ばく影響研究チームの臺野和広研究統括、弘前大学の吉田光明教授、北海道科学大学の中田章史准教授らは、共同研究により、DNA修復機構の異常が原因で発生するリンパ腫のモデルマウスを用いて、放射線による発がんには遺伝子突然変異の誘発とは別のメカニズムがあることを明らかにしました。そして、この研究は、がん研究分野の論文がおおく掲載されるイギリスの科学雑誌「Carcinogenesis」にオンラインに掲載されました。

放射線によってDNAは傷つけられることが知られています。DNAの傷は、通常正しく修復されますが、時として、修復のミスによる突然変異を引き起こします。ガンは、このようなDNAの突然変異が蓄積することで発生するとされます。

研究チームは、放射線により生じたDNAの傷の修復が上手く行われない場合、より多くの突然変異や放射線被ばく特有の変異を蓄積したがんが発生するのではないかと考えました。
そこで研究チームは、DNAミスマッチ修復3)と呼ばれるDNAの修復機構で働く酵素Mlh1の機能を欠損させた遺伝性リンパ腫のモデルマウスを用いて、放射線を照射していない群、あるいは生後に放射線を照射した群に発生したリンパ腫について、その発生率や遺伝子変異を調べられました。

遺伝子変異の解析には、その全体像を解明するため、次世代シーケンス4)と呼ばれる最新のゲノムDNA解読技術が用いられました。その結果、リンパ腫の発症率は、照射群の方が高いにもかかわらず、両群のリンパ腫に生じた遺伝子変異の数や変異パターンには違いが見られないことがわかりました。

これは、放射線にはDNAを傷つけ遺伝子突然変異を誘発する以外の別の作用があることを意味する可能性があります。例えば、がん細胞の周囲の環境を変化させることによって腫瘍の発生を促進するといった作用があるといったものです。

今後、放射線ががんのリスクを高める仕組みについて、その詳細を明らかにすることで、より科学的な発がんリスクの評価や、リスクを低減する方法の開発に繋がると考えられます。

さらに、研究チームは、リンパ腫において高頻度に突然変異が見られる遺伝子を探索し、新たに29個の変異遺伝子を同定することに成功しました。この研究により同定された遺伝子変異やシグナル伝達経路の異常に関する情報は、それらを標的とする遺伝性リンパ腫の新しい治療法の開発に繋がると期待されます。
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