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日本の医療の「質」は世界最高レベル?最新の国際調査で発表

市川衛
医療ジャーナリスト
2017年7月2日
あたりまえのように受けている日本の医療の「質」。国際的に見た場合、どんなものなのでしょうか?
先月、国際的に権威のある専門誌Lancet(ランセット)に、保健医療の質の高さやアクセスの容易さを世界195か国で調べ、ランキング化した調査が発表されました(文献1)。

論文へのリンクはこちら (http://www.thelancet.com/action/showFullTextImages?pii=S0140-6736%2817%2930818-8)

さっそく、日本のランクを確認してみます。
文献1より抜粋

文献1より抜粋

上の表は、ランキング上位13位までを抜粋したものです。日本は11番目。つまり世界195か国中で11位ということでした。

ちなみに国名の横についている数字(HAQスコア 注1)は、医療の質を示す「総合得点」のようなものですが、日本は89点となっています。世界4位にランクされているスウェーデンでも90点ですから、その差はわずかです。

ちなみに、得点が飛びぬけて高いアンドラ公国(95点)は人口7万人あまり、アイスランド(94点)も33万人あまりと人口規模が小さく、日本と単純に比較するのは難しい気がします。(※一般論ですが、人口が多ければ多いほど、全員に質の高い保健医療サービスを提供するのは難しくなると思われます)

日本と人口規模や社会状況が近いG7(先進7か国)で比較すると、例えばアメリカは35位(81点)、イギリスは30位(85点)となっています。G7諸国の中で、日本は最上位にランクされました。

この研究によれば、社会状況が近い国で比較した場合、日本の医療の質は「世界最高レベル」と評価されているようです。

「防げるはずの死」をどれだけ防げたか

ここでちょっと気になるのは、医療の「質」という一筋縄では評価できなさそうなものを、どのように調べたのか?ということです。
論文によれば研究チームは、「もし適切に治療されていたら防げたはずの死を、どのくらい防げたか」を調べることで、医療の質を評価しようとしました。

例えば、感染症のひとつ「結核」について考えてみます。日本では、戦後すぐの時期は結核により年間10万人を超える人が命を落としていましたが、その後治療が進歩し、現在の年間の死者は2000人ほどにとどまっています。
しかし世界を見渡すと、結核に対して十分な治療を行えるシステムが整っておらず、命を落とすことが珍しくない国もあります。
こうした国と比べた場合、結核に関しては日本のほうが「医療の質が高い」といえそうです。

そこで研究では、結核のように、適切な対策によって「防げる」死因を32種類(注2)リストアップし、それぞれについて「防ぎえる死をどのくらいちゃんと防げているか?」を調べました。そして結果を総合的に評価し、その国の保健医療の質やアクセスを示す指数(HAQスコア)を算出しました。

日本の「医療の質」は高まっている

論文では、現時点の各国の比較だけでなく、それぞれの国において、1990以降にどのような変化が起きたかも調べています。
文献1より筆者作成 見やすいよう縦軸の原点を72にしている

文献1より筆者作成 見やすいよう縦軸の原点を72にしている

右肩上がりに点数が伸び続けていることが分かります。このデータを見る限り、日本の保健医療システムはこの30年あまり「防ぎえる死」を確実に減らしてきたと言えそうです。

ここからは論文を離れ、少し個人的な思いを書きます。

わたしたちが普段目にする医療や健康のニュース。「●●が足りない」「世界的に見て、●●が遅れている」ということが話題になりがちです。もちろん、いま病気で治療法がないなど、つらい思いをしている人たちは存在します。改善すべき点を指摘することは大切です。

ただ一方で、今回の研究が示しているのは、この30年で、それ以前では救われなかった命が確実に救われるようになっているということです。それってすごいことではないでしょうか?

実は日本では、実際の医療の質と比べ、「受けられる医療に満足していない」人が多いことが指摘されています(文献2)。その背景には、様々な要因があるでしょう。ただ個人的には、「課題」を指摘する一方で、「成し遂げてきたこと」を伝える報道が少なかったことも一因ではないか。自戒も込めて、そう思わざるを得ません。

これから2025年にかけて、日本は「団塊の世代」の超高齢化に伴う医療システムの変革期を迎えます。これまで受けられた「当たり前の医療」の形が、様々な理由で変わっていくことが予測されます。

そのときに重要なのは、国際的に見て、いまの日本の医療システムの状況はどうなのか?について、良い点も悪い点も含めて、冷静な判断の助けになる情報が広まることではないでしょうか。わたし自身、その助けになるように、自分にできることを少しでも進めていこうと思います。
※)筆者は今回の記事の執筆に関し、いかなる組織からの依頼も、報酬や資料の提供を含む利益の供与も受けていません。

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注1 the Healthcare Quality and Access Index(保健医療の質とアクセス指数) 
注2 感染症(結核・はしかなど)、がん(大腸がん・子宮頸がんなど)、循環器疾患(心臓病や脳卒中など)などが含まれる

文献1 www.thelancet.com Published online May 18, 2017 http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(17)30818-8 1
文献2 ロイヤル フィリップス社プレスリリース「超高齢社会での、日本が抱える医療課題が浮き彫りに ~フィリップスの13か国意識調査で最下位~」(http://www.philips.co.jp/a-w/about/news/archive/standard/about/news/press/2016/20160609_Philips_medical_challenge.html )
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市川衛

(いちかわ・まもる)医療ジャーナリスト/メディカルジャーナリズム勉強会代表/京都大学医学部非常勤講師。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。【主な作品】(テレビ)NHKスペシャル「腰痛 治療革命」「医療ビッグデータ」ためしてガッテン「認知症!介護の新技」など。(書籍)「脳がよみがえる・脳卒中リハビリ革命(主婦と生活社)」「誤解だらけの認知症(技術評論社)」など。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません

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