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腸の働きを整える『腸活』という言葉も定着し、便秘や下痢など身近な体調不良に関わる臓器である“腸管”。しかしながら“腸管”がどんな構造を持ち、どんなふうに働いているのかという仕組みを意識することは、ふだん滅多にないのではないだろうか。

さまざまな細胞・組織が連携し、「消化」「吸収」を始め「腸管免疫(*1)」、また「顫動運動(*2)」などを行う腸管は、ヒト臓器の中でも特に複雑な構造と機能を有している。

そのため、生体腸管と同じ構造と機能を試験管内で再現することは極めて困難だとされてきたのだが、世界で初めて、試験管の中でヒトES細胞(*3)からヒト腸管の機能を持つ立体腸管(ミニ腸)の作製に成功したと、国立成育医療研究センターの研究グループが2017年1月13日に発表した。


*1 腸管免疫;腸管は両端に位置する口腔と肛門を介して外の世界と接しており、腸管粘膜は細菌、ウイルス、寄生虫や化学物質など、さまざまな異物に常にさらされている。これらの異物から体を守るべく発達した仕組みが「腸管免疫系」であり、腸管から吸収される栄養素に過剰反応しないよう応答を抑えることも「腸管免疫系」の重要な役割のひとつである。

*2 顫動運動(ぜんどううんどう);臓器の収縮運動。内容物を移動させる役割を担っている。

*3 ES細胞;どんな細胞にも分化することができる『多能性幹細胞』の1つ。ちなみにiPS細胞も、同じ能力を有する『多能性幹細胞』である。

創薬開発で国際競争をリードするバイオツールになりうる研究成果

まずは、以下の「ミニ腸」の動画を見てほしい。

ES細胞から創られた『ミニ腸』の蠕動様運動

このように、「ミニ腸」は自ら蠕動運動のような動きをするだけでなく、

・ヒトが下痢や便秘薬として用いる薬剤にも反応する
・吸収分泌においてもヒトの生体腸と同様の機能を有する

ということが本研究成果として確認されており、その名のとおり、ヒトの腸管をそのまま小さくしたような立体臓器になっている。

加えて、試験管の中で長期間にわたり生存維持できるため、薬品の試験を繰り返し行うことが可能であり、
「創薬開発において革新的なバイオツールになりうる」
と、研究チームは解説する。

というのも、服用された薬がヒトの体の中で最初に吸収・代謝を受けるのが腸であり、その後、肝臓へと移るのが通常のプロセスであり、創薬開発においては“腸管”でどう作用するかの評価が欠かせないものとなる。

と同時に、近年、生体機能を生体外で再現し、応用する『生体機能チップ』(Human/Organ-On-A-Chip)の開発が国際的に進んでいるが、それらの持つ機能は実際のヒトのものと比べると限定的であり、従って、新しい薬が実際にヒトにどういう作用をもたらすかを調べる際の評価も、限定的なものにしかならない。

その点、ヒトの腸管とほぼ同じ機能を保有する「ミニ腸」を使っての創薬評価であれば、結果=実際に服薬した場合にヒトの腸にどう影響するかの評価とみなすことができ、ダイレクトに新薬開発につなげられる。

すなわち創薬開発の国際競争のなかで優位性を発揮できる、というわけだ。

生体組織移植による「次々世代の再生医療」も視野

もちろん「ミニ腸」は、先天性の腸の疾患(Hirshprung病類縁疾患など)や炎症性腸疾患(Crohn病、潰瘍性大腸炎など)、腸の難病の研究にも役立てることができる。

さらに、本研究成果からは、生体組織を試験管内で作製し、ヒトの体に組織移植するという『次々世代の再生医療』への応用も期待されると、同研究チーム。

そして、その先には、ES細胞やiSP細胞などの『多能性幹細胞』からヒトの臓器と同じものを創り出し、疾患でダメージを受けた臓器と交換するという“究極の再生医療”が実現する日がきっと待っているはずだ。


なお、本研究は、国立成育医療研究センター再生医療センター・阿久津英憲医療研究部長、梅澤明弘センター長グループと臓器移植センター笠原群生センター長を中心にとした研究グループの成果であり、大日本印刷株式会社、東北大学の研究者らの協力のもとに進められたものである。

引用・参照

https://www.ncchd.go.jp/press/2017/es-organoid.html
http://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_1142.php
https://health.goo.ne.jp/medical/word/155


【発表論文情報】

・著者: Hajime Uchida, Masakazu Machida, Takumi Miura, Tomoyuki Kawasaki, Takuya Okazaki, Kengo Sasaki, Seisuke Sakamoto, Noriaki Ohuchi, Mureo Kasahara, Akihiro Umezawa, Hidenori Akutsu.
・題名: A xenogeneic-free system generating functional human gut organoids from pluripotent stem cells
・掲載誌:JCI insight 2017, January 12
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