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理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター機能性ゲノム解析部門の吉原正仁特別研究員(研究当時)、科学技術ハブ推進本部予防医療・診断技術開発プログラムの村川泰裕マネージャー、林崎良英プログラムディレクターと、量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所放射線障害治療研究部の安倍真澄部長、大阪大学大学院医学系研究科の西田幸二教授らの共同研究グループは、マウスおよびヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)樹立時に生じるゲノム変異のパターンを全ゲノムレベルで明らかにした。


iPS細胞は、分化した体細胞に転写因子セットを導入すること(リプログラミング)で作製される多能性幹細胞であり、再生医療や創薬への応用が期待されている。

しかし近年、iPS細胞には点突然変異(点変異)が全ゲノムのさまざまな領域に存在することが報告され、移植後のがん化などへの関与が懸念されていた。

これらの点変異の特徴やゲノム上での分布パターンについては明らかになっておらず点変異が安全性やがん化などに及ぼす影響の評価は困難となっていた。



今回、共同研究グループは、マウスおよびヒトiPS細胞樹立時のリプログラミングの際に生じた点変異のデータと、ヒストン修飾などのエピゲノム[5]データを統合し、点変異のゲノム上の分布パターンを全ゲノムレベルで調べました。その結果、マウスとヒトいずれにおいても、点変異はタンパク質をコードしている遺伝子領域およびプロモーターやエンハンサーなどの遺伝子発現調節領域では低密度でした。これは、ヒトの疾患に関連する一塩基多型(SNP)が遺伝子発現調節領域に濃縮しているのとは対照的となっている。

一方で点変異は、細胞内の核膜直下に位置する核ラミナ結合領域(LAD)[8]に高密度に存在していました。LADは遺伝子密度が比較的低く、DNAが高度に凝縮され、DNAからRNAへの転写が抑制された領域である。

すなわち、iPS細胞におけるゲノム変異の多くが、遺伝子発現に影響を与えない“良性の変異”であることが示された。さらに、リプログラミングの際に①細胞質内のミトコンドリアから活性酸素が一過的に放出される、②放出された活性酸素によって核内の核表面に近いLADに点変異が生じる、③LADにはDNA修復酵素が届きにくいため点変異が高密度で蓄積する、というメカニズムが考えられた。


今後、iPS細胞の臨床試験例を積み重ね、ゲノムデータと臨床データを紐づけることで、これらのゲノム変異がもたらす影響について実証され、安全で有効な治療が展開されるものと期待できる。

この研究は、米国のオンライン科学雑誌『Cell Reports』に掲載された
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