PULSE INTERVIEW  第2章

再生医療と遠隔医療そして人工知能がどんどん進んで行く

鈴木寛
東京大学教授
2017年3月13日
医療イノベーションが叫ばれる中、医療の現場では実際にどこまで進んでいるのか、またそれによりどういった変化が今後起こるのか。医療イノベーションの「今」を、文部科学省大臣補佐官であり、東京大学、慶應義塾大学の教授も務める鈴木寛氏に聞いた。

たんぱく質の解析の時代に突入している

ゲノム解析が一段落したことで、ヒトの体の大元の筋書きに沿って、たんぱく質を組み立てていくシステムが解明されつつあります。

人間の体はたんぱく質からできているので、これがわかるようになると身体の血液を一滴抽出するだけで病気がわかるようになります。そして、解明された病気の悪くなった組織や臓器は代替しよう。これが再生医療の考え方で、この10年くらいでiPSの組織や臓器が出来てきます。

医療のイノベーションで大事なのは、新たに可能になることを、同時多発に可能になるよう広めていき、民主化していくということです。これを再生医療においても、自家細胞、つまり自分の細胞からiPS細胞を作って、そして、それを他の臓器に変える、他の組織に変える、ということをして多くの人に届くようにと研究が進んでいるのですが、実はこれだと時間が掛かるんですね。

そこで、他家細胞といって、人の細胞から作ったiPS細胞を予め用意しておいて、必要な時にすぐに出せるようすると、コストも下がるし、治療期間も短くなります。

このインフラを整備していて、いろんなタイプのゲノムの他家細胞を集めておくということが、山中先生のリーダーシップの基で、着々と進んでいるんです。

また、実は、全部が全部iPSでやらなくても良いんです。iPSは全部初期化してから作るんですが、比較的構造が近いところだったら、全部初期化する必要はなくて、ちょっと初期化するだけで、他の細胞にすることができます。

脂肪細胞や、iPS以外のメカニズムとそのための色んな、これをどういう風に使いこなしていくかこれも進んでいますから、iPSプラス、それ以外のところで、基盤ができていくということだと思いますね。

遠隔医療はどこまで進むのか?

僕は常に、患者がより良い医療サービスを受けた方がよいと考えています。その観点から言うと、医者による遠隔医療はどんどんやったほうが良いと思います。

医者が行けないところに、いけない時間に、医者の分身を患者に届ければ、患者はよりよい医療サービスを受けられる。これは患者にとってメリットです。

こうして、医者をどんどんエンパワーしていけば、患者はメリットを受けるわけです。これはメディカルのエンパワーもそうだし、AIなどのテクノロジーによるエンパワーもそうです。そのモデルをどんどん広げていけば、医療サービスが良くなる。これは疑いようがありません。

ただ、医者を機械に置き換えようとか、抜こうとすると、いらぬコンフリクトを受けます。 というのも、AIは、まだ複雑系の問題には対応できないという問題を抱えているからです。

単純系、つまり方程式が明確化されて再現可能な事象に関しては、AIはパーフェクトだと思います。ただ、世の中の生命現象とか、社会現象というのは、複雑系です。

天文学には、三体問題というものがあります。例えば、物質2つだけだったら簡単なのですが、3つの星になった瞬間に一気に複雑化するんですよ。それを三体問題と言うんですが、三体問題をAIが解いていくというのは相当難しいと思います。

ワトソンをはじめ、人工知能が色々な場面で使われるようになり、クイズ大会で勝ち、囲碁でも人間に勝ちました。しかし、考えたいのは、麻雀で人間に勝てるようになるのはいつか、ということです。

麻雀は四人です。バイ(2人)はいいんだけど、マルチ(3人以上)になった時には、先程の三体問題と似ていますが、暴走するやつがいたり、共謀するやつがいたりと状況は複雑化します。

麻雀のAIがいつ勝つかはAIの研究者に聞いてみたいですね。

人工知能による診断の精度

なので、シンプルな疾患に関しては人工知能の診断精度は人間よりも高度かもしれません。

この間、ある医療者に話を聞いたら、「人工知能の誤診率を0にするのは難しいが、近い未来に人間の誤診率よりも低くすることは可能だ」とおっしゃっていて、多分そうだろうな、と。

さらにいえば、置き換わる話ではなくて、両方使えば、より相まって正確な診断ができるということですよね。それは繰り返しですが、患者にとって良いことなので。

人工知能によって、「医者が10分の1になる」とよく言われますが、実際のところは、医者が10分の1になるというよりも「医者のミスが10分の1になる」ということなんです。

セルフメディケーションの可能性

また、軽い疾患については、セルフメディケーションのようなものが進んでいくと思います。

実際、今でも皆さん、自分で診断しているわけですよね。自分の疾患については、自分の方が詳しい。過去にどういう自覚症状とか、なかなか記号化しないこの時の痛みとかは、自分で理解している部分があるはずなので、これにAIが加われば、自己診断能力は相当上がると思いますよ。

特に自覚症状があるものは治るようになるでしょうし、自覚症状が無いものも、バイオマーカーがリッチになれば、状況は変わってきます。

結局、あらゆる分野について、患者と医者とAIとのコラボレーションが進むということです。それぞれは、置き換わるんではなく、画像や動画などによって、3者の言語が一致することによって、コラボレーション可能になり、早期発見や正確な診断が、早期に的確にできるようになる、ということではないでしょうか。

まだ人間が必要な領域がある

まとめると、今人間がやっている、ある型のある業務、つまり定型業務はAIに置き換わります。一方で、バイラテラルな業務、脳のロジカルな業務は置き換わりません。ただ、AIと患者、医者のコラボレーションで、様々な疾患が治るようになっていくでしょう。

しかし、最後にお伝えしたいのは、精神疾患です。これから1番重要になる分野はこの分野だと思います。

実は、精神疾患に対しては、まだまだあまりにもアンノウンなところが多いんです。

医学における精神医療と、心理学は、いまのところ架橋ができていません。心理学は山のように学派があり、それぞれの学派の間での共通の議論の土台さえ無い。かといって、精神医療がベストともどうも思えない。ものすごい未開拓なんですね。

また、データベースや、AIにエンパワーされた人間が入ってくれば変わってくるかもしれませんが、ここをAIに置き換わることができるかというと難しい。なぜなら、精神疾患だとか、心の問題はそんなに簡単ではないからです。

逆に言うと、これからの医学部のやつはみんな精神科に行けっていう話なんですが、精神疾患については、まだやるところはたくさんあります。

どうして、ある人が精神的にしんどい状況になってしまったかというと、その人は本当にマルチなコミュニケーションの積み重ねの結果、そういった精神状態になってしまったわけですよね。

このマルチな要因を、ほぐしていき、どうやってトレースするのかと考える、みたいな話になると、人間のファジーなところの全体をつかむ力とかが人工知能に勝るんじゃないでしょうか。

次回

医療改革のポイントは予防と早期にあり|鈴木寛|東京大学教授|第3章 PULSE

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鈴木寛

東京大学教授 慶應義塾大学教授 文部科学大臣補佐官
1964年生まれ。杉並区立桃井第三小などを経て灘中・高、東大法卒。中高ではサッカーとバンドに明け暮れ、大学では演劇と音楽に没頭。通産官僚を経て、慶応義塾大学助教授。2001年参議院議員初当選(東京都)。以来、文部科学、医療を中心に活動。2007年再選。文部科学副大臣を2年間つとめる。2011年より、与党で政策調査会副会長、現在広報委員長。超党派スポーツ振興議連幹事長、東京オリンピック・パラリンピック招致議連事務局長。日本ユネスコ委員。大阪大学招聘教授、中央大学客員教授、電通大学客員教授。趣味:サッカー、合唱(六本木男声合唱団創立メンバー)、演劇。