PULSE TALK 第3章

ワトソンが今行っている、「3つのソリューション」とは

西野均
日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発部長
2017年3月21日
明治維新。横浜と新橋の間で陸蒸気(蒸気機関車)対人が乗った馬の競走があったという。この時の結果が「馬が勝った」という話が残っている。
先端技術対人力。将棋もチェスも囲碁もそろそろ先端技術が勝利をおさめるようになってきたようだ。アメリカのテレビのクイズ番組に出て人間をやっつけたことで脚光を浴びたアイビーエムの人工知能テクノロジー「ワトソン」は果たして人力を超えるのか?
pulseを読んでいる人は知っている。
人工知能による便利な時代がやがてくることを。馬よりも内燃機関の方がはやいという時代は「馬が勝った」すぐ後に来てしまった。「時代は変化する」ノーベル賞作家のボブ・ディランも言っている。
昨年命未来フォーラムで登壇された西野均さんのお話を聞いてみよう。

ワトソンには「今」現在、3つのソリューションが存在しています。

①エンゲージメント(つなぐ)

顧客接点と呼んでいるものです。

これをヘルスケア分野で使っている例としては、スポーツウエアブランドのアンダーアーマーが今年1月にスタートした「ヘルスボックス」というのがあります。

スマホと、あとは体組成計とかさまざまな健康機器を使って、ユーザーに健康管理のためのコーチングをするアプリです。

ワトソンの役割は、健康情報やフィットネスクラブからの情報、それからどんなものを食べているかという栄養摂取の情報、いろんな文献、そして先ほどからお話しているようにユーザーと類似性を持つ人の情報と比較しながら、この人は何をやったらいちばんその人にとって効果的かというのを見つけていくことです。要はヘルスケアをパーソナライゼーションしようといのが、我々のやっていることになります。

②ディスカバリー(見つける)

発見というソリューションに関しては、東京大学の医科学研究所さんでの事例というのが、比較的有名かと思います。
NHKより

NHKより

ステップとしては、まず悪性腫瘍の細胞を摂取して、シークエンス処理をして、遺伝子の壊れ方を見る。で、そのゲノムの変異を解釈したうえで、その解釈に合う薬を選定するという作業をしています。
ワトソンがやるのは、多くの文献からゲノム検査のデータにあった可能性のある治療なり薬を探し出すということです。
どこから探してくるかというと、ワトソンが何か新しいことを考えるわけではなく、論文や文献です。

 お医者さまが全部の文献や論文を読んで理解するというのは時間的に難しい。ですので、それらをワトソンが読んで、この患者さんの場合は「この遺伝子のここが壊れてるから、この薬が効く可能性のある候補ですと思うよ」と言ってくれる。こういったことが、ワトソンのやっていることになります。

③ディシジョン(おすすめ)

◉ワトソン・フォー・オンコロジー

意思決定支援と呼んでいるもので、最近だとNYのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターと一緒にやっている「ワトソン・フォー・オンコロジー(Watson for oncology)」というのがあります。

これは、がんセンターのエキスパートの医師の治療方針や診断をワトソンに教え込ませたものです。これにより、NYのがんセンターでの治療方針を他の国や地域の病院で知ることが可能になり、最新の医療やがんセンターでのやり方を学ぶことができます。現在はタイなどの病院で活用され、セカンドオピニオンとして活用されたり、治療の質の向上に使われています。


なかなか日本でこのような仕組みを活用するのが難しい背景としては、このようなAIを活用した支援システム(Clinical Decision Support)が
医療機器なのか、それともツールなのかという部分がグレーだからです。それが法的に臨床現場に導入しにくい点になります。



◉日本での最新プロジェクトは糖尿病疾患の悪化予測

日本では、藤田保健衛生大学と保険会社そしてIBMのあいだで、糖尿病疾患に関してのデータ解析をワトソンでやりましょうというプロジェクトが、7月に始まっています。

患者のカルテのデータをベースに、整理をして、解析をして、最終的には悪化予測に結びつけるのが目標です。何をすると悪化して、何をやれば悪化するのを止められるかーーそういったところをワトソンで解析していこうという内容になっています。(第一生命 http://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2016_028.pdf )

次回

次回は3月28日に公開します。
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西野均

日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発部長
82年慶応大学数理工学科卒
ICタグシステムの研究開発に携わり、物流や生産現場での効率化につながる技術推進に大きく貢献。現在はワトソン研究開発のエキスパート。