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歩数や活動量、消費カロリーから心拍数など、さまざまな測定機能を搭載したものが登場し、健康管理のためのセルフケアガジェットとして一般に認識されつつあるウェアラブル機器。

そこから一歩先へ進み、“病気を予知”できるスマートウォッチを製作しようという研究を進めているのが、米国カリフォルニア州のスタンフォード大学だ。
すでに風邪やその他の感染症の兆候をユーザーが自覚する前に喚起し、実際に役立つことが実証される段階まできているという。

この技術が確立・普及すれば、感染症の症状が現れる前に早めの対処ができるようになると、研究チームは主張する。

しかし、それが予防医療として実用性を有するものなのか、むしろ悪影響をもたらすのではないかと、疑問を投げかける医師も存在している。

元気そのものなのにスマートウォッチから警告が…

それは昨年のある日、スタンフォード大学のマイケル・スナイダー教授(遺伝学/スタンフォード・ゲノム&個別化医療センター所長)に起こったという。

本人は元気そのものだと感じていたにも関わらず、スマートウォッチがアラートを発したのだ。

スナイダー教授は“病気予知”の信頼性をテストするため、7種類のセンサーを搭載したスマートウォッチを1年以上、身に着けて過ごしていた。
見ると、センサーは彼の脈拍が通常時より速くなり、皮膚の温度が上昇して、血液中の酸素濃度が低下していることを示している。

この時スナイダー教授には、思い当たるフシがなくもなかった。
もしかすると最近マサチューセッツへ行った際、ライム病(野生のマダニが媒介する細菌によって起こる感染症。欧米では年間数万人が罹患し、その数は年々増え続けている)に感染したのかもしれないーー。

続いて軽度の発熱が起こった時点で、スナイダー教授は医師の元を訪れ、ライム病の標準治療に用いられる抗生物質を投与してもらった。
すると、1日で症状は治まり、その後の検査結果から「ライム病に罹患した」というスナイダー教授の自己診断が正しかったことが確認されたという。

病気の予兆は心拍数と皮膚温度に現れる

研究チームによれば、40人以上のボランティアが最長2年間にわたり、このスマートウォッチを装着。脈拍と皮膚温度を記録・観測し続けたところ、風邪やその他の感染症の症状が発現する3日前までのあいだに、通常より高い心拍数と、時には皮膚温度の上昇がみられることがわかってきたそう。

「このウェアラブルテックは(一定の期間を使って)装着者個人の通常のベースラインとなる測定値を確定するために十分なデータを収集したのち、何かそこからはずれる不調が起こると感知することができる」

「これは個人の記録であり、1年に一度、医師のもとで数値を測り、一般的な基準値と比べるより有益だ。たとえば心拍数には個人差があり、自分以外の人たちの平均値との比較では、あまり多くのことはわからない」

と、スナイダー教授は解説する。

症状が現れる前に病気をシャットアウト

これらの成果を受け、研究チームは今後、着用者が病気になったかもしれない時に通知を発するアルゴリズムを構築したい考えだ。

スナイダー教授が期待するのは「病気になったり、不調を感じて気分が悪くなる前に、スマートウォッチが警告できるようになる」ことだ。

「心拍数と皮膚温度が約2時間のあいだ上昇したままであるなら、病気にかかっている可能性が高いと我々は考えている」

「通知をスマートウォッチから受け取った人は、飲みに行ってダンスをする代わりに、横になって休むという選択をするはずだ」

従って、症状が現れる前の段階で病気をシャットアウトできるようになる、というわけだ。

バイタルサインの異常=必ず病気になるわけではないという反論も

しかし、スナイダー教授の研究に疑問を投げかける医師もいる。

「病気が重症化する前に、できるだけ早く介入することができるようになるという考えには、本当に興奮させられる。ただし、患者や医師は、本デバイスが誤った数値を記録していないか、正しい方法でキチンと使用されているのかどうかを、きちんと見極める必要がある」と、オーストラリアのデジタル・ヘルス・エージェンシーの主任医学顧問メレディス・メアハムは警告している。

「この技術は、ユーザーに必要のない心配を抱かせる危険性を持っている」

そう指摘するのは、メルボルンにある王立オーストラリア総合診療医大学(Royal Australian College of General Practitioners。General Practitioner=総合診療医・一般開業医)でeHealth委員会の委員長を務めているネーサン・ピンスキー医師だ。

「総合診療医が管理する主要な事柄の1つは“不安”だ。患者はしこりがあるとか、少し体の具合が悪いと感じたりすると、(自分は重篤な病気ではないかといった)不安を抱くようになる。このスマートウォッチは警告データに関して何も説明しないので、それに不安を抱いた人たちが、本来は必要がないのに医師のところへ駆けつけるという事態を招きかねない」

さらに、ピンスキー医師は言う。
「今後病気になると知っていることは、多くの場合、病気を避ける役には立たない。もし、あなたがインフルエンザにかかったのなら、あなたはインフルエンザになるのだ」と。

このように、さまざまな議論を呼んでいる“病気予知”用スマートウォッチ。
たとえ取り越し苦労に終わったとしても病気を事前察知できるなら身に着けたいとも思うが、ただでさえ多忙な医師をわずらわせる確率の方が高くなるのであれば、それはそれで問題になる。さて、あなたはどう考えますか?

引用・参照

https://www.newscientist.com/article/2117854-smartwatches-know-youre-getting-a-cold-days-before-you-feel-ill/
(本稿のショートバージョンは2017年1月21日、『New Scientist』誌に掲載される)

https://med.stanford.edu/profiles/michael-snyder
https://au.linkedin.com/in/meredith-makeham-4008b849
https://www.youtube.com/watch?v=JWYHVV1Lq0w
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