PULSE TALK 

青梅慶友病院の目指す「尊厳ある最晩年」

大塚太郎
青梅慶友病院 理事長
2017年3月18日
本記事では、「最晩年をどう生き、どう死ぬか。」をテーマに、「尊厳ある最晩年」を患者様に提供しようと、業界内で先立って新たな取組に挑戦している青梅慶友病院理事長の大塚太郎氏のご講演を紹介。「尊厳ある最晩年」は日本の医療現場でどこまで実現できるのか、可能性を探る。

ほとんどが死亡退院――終の棲家としての病院

私どもの病院は青梅慶友病院という名前の病院です。今いらっしゃる患者様の数は698名で、そのうち女性が8割、男性が2割。患者様の平均年齢は88.5歳です。年齢構成で言うと90歳以上が半分、100歳以上の方も今22名います。つまり超高齢の患者様が多くいる病院です。

平均の在院期間は3年4ヶ月。現在一番長くご入院されている方では25年5ヶ月の方がいらっしゃいます。つまり一時的に滞在するのではなく、長く滞在している患者様が多いということです。

退院される方を見てみますと、一年間の退院者は大体270~280名ぐらいいらっしゃるのですが、ほとんどの方が死亡退院です。

病院というと怪我や病気を治して元の生活に戻るための一時滞在の場所というのが一般的だと思うのですが、私どもの病院はそうではなくて、人生最後の数年間を過ごして旅立ちを迎える。本当の意味での終の棲家になっているところだと思います。これが青梅慶友病院の大きな特徴の一つです。
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「豊かな最晩年」をつくるための取組み

開設時からの理念は「自分の親を安心して預けられる場所を作る」というものです。この理念に基づいて、豊かな最晩年をつくるということを目指して色々なことをやっています。患者様に対しては、生活・介護・医療の一体的提供というものを掲げています。

今、日本では最後の時間を穏やかに過ごして旅立っていくのが非常に難しいです。その理由は社会制度にあります。日本では生活と介護と医療というものが、制度的にバッチリ分かれているんです。例えばお金の面だと、生活を担うのは年金、介護は介護保険、医療は医療保険。それから場所についても、生活は家庭、介護は介護施設、医療は医療施設という風に分かれています。つまり、患者様は、介護が必要な時は介護施設に、医療が必要な時は病院に、といった具合に行ったり来たりさせられるんです。この仕組みは患者様にとっては非常に不便です。

だから私どもは、制度に合わせてサービスを展開するのではなくて、患者様のニーズに合わせてサービスを展開しています。つまり、まず豊かな生活の場をつくる。そして、生活の場と一体となって医療・介護も提供しています。また、豊かな生活な場をつくるために患者様一人ひとりに合わせた食事があったり、散歩できるお庭があったりします。このように生活を豊かにするために、色々なものを揃えているうというのも青梅慶友病院の特徴です。
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▲リハビリテーションスタッフ(写真左)や生活活性員(写真右)によって、患者様の能力を最大限引き出すサポートが日々行われている。
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▲豊かな生活の場づくりとして、散歩が可能な庭が整備されていたり、慶友コンサートと称したプロのコンサート等が実施されていたりする。

苦痛に満ちたみじめな長生きよりも、豊かな一日を

青梅慶友病院では、生活・介護・医療の一体的提供に加えて、高齢者にふさわしい医療に取り組むということを掲げています。私どもがお預かりしている80歳、90歳の患者様は、明日突然亡くなってしまうという可能性を否定できません。ですから、そういう方にふさわしい医療を展開するということです。

医療というのは、患者様の不具合を治して少しでも早く社会復帰をさせることを目標にして発展してきた歴史があります。だから医者は患者様に対して痛い、苦しい治療を施すことを許されているのです。その先に、良い生活、つまり社会復帰が待っているという確信が持てるから、医者は痛い、苦しい治療をしてもいいということになっています。それを判断できるのが医療者という免許です。

それでは高齢者の方への医療はどうでしょうか。例えば目の前に90歳の女性がいらっしゃるとします。その方は糖尿病です。糖尿病なので甘いものは食べられません。でもその患者様がアイスクリームを食べたいとおっしゃいます。もしくは晩酌をしたいとおっしゃいます。その時に、病院だから駄目です。あるいは糖尿病が悪くなるから駄目ですと言ったとします。

その結果、糖尿病は悪くならなかったかもしれませんが、次の日に突然脳梗塞を起こして死んでしまった。このようなことがいくらでも起こりうるんです。

だとしたら人生の最後に食べたかったアイスクリームを食べさせない。飲みたかったお酒を飲ませない。もしその患者様が自分の親だったら、どう思うでしょうか。そんな最後嫌ですよね。

高齢者にとっての医療は若い人への医療とは違います。その先に社会復帰という見返りがないような場合、もしくは見返りがある可能性が高くない場合は痛い、苦しい治療はなるべく行わないべきです。チューブや薬、検査をなるべく少なくするような最後の生活を送っていただき、苦痛に満ちたみじめな長生きよりも、豊かな一日を作ろうということを私たちは考えています。

人を幸せにするためにあるのが医療

医療はもちろん出来る限り健康を増進する、維持するためのものなのですが、究極的には人を幸せにするためにあるものだと思います。あるいは幸せにまでできなかったとしても、不幸を最小限にするためにあのではないかと思うんです。

医療とは病気や怪我を治すものだというような非常に狭い概念で見てしまうと、治療はなんのためにするのか、この注射一本はなんのためにしているのかということがよくわからなくなってしまいます。これが今の医療界のあらゆる問題の根源にあるんじゃないかと私は感じています。
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大塚太郎

青梅慶友病院理事長
東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、順天堂大学医学部入学。同卒業後、順天堂大学医学部精神医学教室に入局。順天堂医院、順天堂越谷病院、順天堂東京江東高齢者医療センターなどの勤務を経て2007年より青梅慶友病院に勤務。2010年より現職。